騒音計算のやり方がわからず困っていませんか?
この記事は騒音対策の検討が必要になった設備設計者向けに、騒音の基礎知識から計算方法、騒音規制法の基準値まで体系的に解説しています。
- 部屋の許容騒音値を提示され、対策を求められたが進め方がわからない
- 書籍やWebで調べたが、logの計算式が複雑すぎて理解できない
- 消音器やダクト減衰量のグラフの読み取り方がわからない
筆者は建築設備士として実務で騒音検討を行ってきました。この記事では実際の計算手順をスプレッドシート付きで紹介しています。
- 騒音計算の全体像と手順がわかる
- 簡易計算であれば自分で行えるようになる
- 計算代行会社への依頼内容を整理できる
読み終えれば、騒音検討の全体像を掴んだ上で、計算代行業者にも自信をもって指示を出せるようになります。
騒音の基礎|dBの3種類を整理する
音の大きさを表す単位はすべてdB(デシベル)ですが、実は3種類あります。ここを混同すると後の計算でつまずくため、最初に整理します。
音圧レベル・音の強さのレベル・パワーレベルの違い
| レベル | 何を表す? | 単位 |
|---|---|---|
| 音圧レベル(SPL) | 耳で感じる音の大きさ 空気の圧力変化の大きさ | dB SPL |
| 音の強さのレベル(SIL) | 単位面積を通過する音響エネルギー流 方向性がある | dB SIL |
| パワーレベル(SWL) | 音源が放出する総エネルギー量 距離に依存しない | dB SWL |
一言でまとめると次の通りです。
- 音圧レベル:どれくらい音が強いか(距離で変わる)
- 音の強さのレベル:どの方向に、どれくらい強い音が進んでいるか
- パワーレベル:音源そのものの持つエネルギーの大きさ(距離で変わらない)
音圧レベルと音の強さのレベルは距離が遠くなるほど低下しますが、パワーレベルは音源そのもののエネルギーなので変わりません。
dB(デシベル)以外にはphone(フォン)という単位もあります。人間の聴覚特性を組み込んだ心理的尺度で、音圧レベルとの対応グラフから読み取ります。

実務で最も使うのは「音圧レベル(SPL)」と「パワーレベル(SWL)」の2つ。機器カタログに載っている騒音値がどちらなのかを確認するクセをつけよう。
騒音の表し方|A特性・暗騒音・NC値・RC値
騒音は単に音の大きさだけでなく、周波数や環境の影響を考慮した指標で評価します。設備設計で押さえるべき4つの指標を解説します。
騒音レベル(A特性音圧レベル)
音圧レベルを人間の耳の感度に合わせて補正して測定した値です。単位はdB(A)です。
人間の耳は3〜4kHz付近の音に最も敏感で、低域・高域に向かうほど感度が下がります。A特性フィルターはこの聴覚特性を反映した周波数重み付けで、人の感覚に近い形に補正しています。
- 環境騒音の測定(工場・オフィス・道路交通など)
- 機械の騒音評価(エアコン・PCファンなど)
- 一般的な騒音評価の最も標準的な指標
目安として、静かな住宅地は40dB(A)、交通量の多い道路は70dB(A)程度です。
暗騒音
対象とする音がない状態で、すでにその場所に存在している騒音のことです。
遠くの交通音や部屋の中の小さな反響音がこれに当たります。会議室や録音スタジオでは暗騒音が大きいと小さな音が聞こえづらくなるため、設計時に重要な基準となります。
NC値(Noise Criteria)
部屋の静けさを数値化した指標です。音圧レベルをNC曲線と比較して求めます。
| NC値 | 環境の目安 |
|---|---|
| NC-15〜20 | 録音スタジオ、コンサートホール |
| NC-25〜30 | 静かな住宅、病院の病室 |
| NC-30〜35 | 図書館、ホテル客室 |
| NC-35〜40 | 一般的なオフィス |
| NC-50 | 事務室としてはかなり騒がしい |
RC値(Room Criteria)
ASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)が策定した室内騒音の評価指標です。
NC値は騒音の大きさだけを評価するのに対し、RC値は騒音の「質」(低周波のゴロゴロ音、高周波のシューシュー音など)も診断できます。用途ごとに目標値が異なるため、設計仕様書では用途と合わせて確認する必要があります。
| 用途 | RC目標値 |
|---|---|
| 個室オフィス・会議室 | RC-30程度 |
| オープンオフィス・ロビー | RC-40程度 |
| 実験室・作業室 | RC-50程度 |



NC値は日本の設計でよく使う。RC値はASHRAEベースの仕様書で登場する。どちらも「数値が低いほど静か」と覚えておけばOK。
騒音の伝搬経路|5つの経路を押さえる
騒音対策を考えるには、まずどの経路で音が伝わっているかを特定する必要があります。大きく分けて空気伝搬音と固体伝搬音の2種類です。
- 空気伝搬音:空気を介して伝わる音
- 固体伝搬音:建物や構造体を介して振動として伝わる音
設備設計で押さえるべき5つの具体的な経路を見ていきます。
①機器から直接室内に放射される騒音
エアコンや換気扇のモーター音・風切り音が室内に直接放射されるパターンです。距離が近いほどうるさく感じます。
- 低騒音型の機器を選定する
- エアコンの設置位置を工夫する(頭の近くを避ける)
- 吸音性の高い建材を使用する
②ダクト経由で制気口から室内に放射される騒音
ファンの回転音やダクト内の風切り音が制気口から室内に出てくるパターンです。空調系の騒音検討で最も頻繁に扱います。
- ダクト内に吸音材を内張りする
- ファンの回転数を調整する
- ダクト形状をスムーズにして空気の乱れを減らす
③壁・天井を透過して伝搬する騒音
壁や天井が音を完全に遮断できないため、隣室のテレビ音や機械室の動作音が透過してきます。
- 遮音性の高い壁・天井構造にする
- 吸音材や防音パネルを設置する
- 壁の隙間をなくし遮音ドアを設置する
④屋外機器・ガラリからの騒音が屋外に伝搬
冷却塔やチラーのファン音・モーター音が屋外に放射され、近隣住民との騒音問題に発展するケースです。
- 防音壁や遮音パネルを設置する
- 屋外機器を敷地境界から離す
- 低騒音型の機器を選定する
⑤機器振動が構造体を伝わる固体伝搬音
ポンプや空調機の振動が建物の床・壁を通じて伝わり、離れた部屋でも「ゴーッ」という低音として聞こえます。固体伝搬音は距離が離れても減衰しにくいのが特徴です。
- 防振ゴムや防振装置を使う
- 機械を壁や床に直接接触させない
- 建物の構造自体を防振設計にする



実務では②のダクト系騒音と④の屋外機器騒音の検討頻度が最も高い。この2つの計算方法は後半で詳しく解説する。
室内の騒音計算|防音設計の手順とスプレッドシート
ここからが実務の本丸です。ダクト系統の騒音がどれだけ減衰して制気口から室内に出てくるかを計算します。
機器の発生騒音の求め方
機器の発生騒音は各メーカーのカタログから取得します。


騒音データがない場合は、ASHRAE系の概算式の一例として以下の式から求めることもできます。適用条件や単位系はメーカーや文献で異なるため、使用時は前提条件を確認してください。
Lw=Kw+10log10Q+20log10P+C
Lw:送風機発生音のパワーレベル[dB]、Kw:基本パワーレベル[dB]、Q:流量[m³/s]、P:圧力[Pa]、C:送風機の静圧効率による補正値[dB]
ダクト内の発生騒音
ダクトに送風すると以下の各部分で気流騒音が発生します。発生音のパワーレベルを把握しておく必要があります。
- ダクト直管部
- 曲管部(エルボ)
- 分岐部
- 断面変化部
- 流量制御装置(VAV等)
- 制気口
- 消音器
機器が複数台ある場合、これらを一つ一つ手計算するのは非常に煩雑です。実務上は条件を整理して専門の計算代行会社に依頼するのが現実的です。
防音設計の全体フロー


室内における騒音の伝搬計算


制気口から測定点までに騒音は減衰します。室内の表面積や平均吸音率に依存し、次の式で求められます。
Lp=Lwr+10log10(Q/4πr2+4/R)
Lp:音源から距離rの点の音圧レベル[dB]、Lwr:音源から放射されるパワーレベル、Q:指向性指数、R=Sα/(1-α):室定数、α:室内の平均吸音率
指向性指数Qはf・lの値からグラフで読み取ります。f:周波数、l:√(lx・ly)(ダクト開口端の長辺・短辺の幾何平均)。
騒音計算の例題(スプレッドシート付き)
次のような空調系統を例に、実際に室内騒音を計算してみます。




スプレッドシートの着色セルに条件を入力すれば、室内での減衰量を計算できます。
自然減衰量(ダクト系のエレメント別減衰)


ダクト系の自然減衰量には4種類あります。
- 未処理直管部
-
直管部による減衰量は小さいため、通常は安全率として無視します。表より読み取ります。
- 未処理曲管部
-
エルボサイズが大きければある程度の効果が見込めます。表より読み取ります。
- 分岐部
-
分岐部ではほぼ面積比で音響エネルギーが分配されます。
分岐部減衰量=10log10(分岐ダクト断面積/分岐ダクト総断面積)[dB]
- 開口端
-
ダクトの開口端では音の一部が反射され、放射される音が減衰します(開口端反射)。周波数別にグラフより読み取ります。
ダクト系の自然減衰とは反対に、ダクト外部からの騒音がダクト内に入り込むケースもあります。騒音の著しい場所をダクトが通っている場合やフレキシブルダクトでは注意が必要です。
消音器の種類と特徴


- 吸音材内張りダクト
-
ダクト内面にグラスウールなどの多孔質吸音材を内張りしたもの。中高周波数の減衰は大きいが、低周波数域は期待できない。
- スプリッタ・セル型消音器
-
ダクト内に吸音材の仕切りを設けて吸音面積を増やしたもの。中高周波数の減衰が大きい。


- 消音エルボ
-
ダクトエルボに吸音材を内張りしたもの。
- 消音ボックス
-
ダクト断面を拡大し、内部に吸音材を内張りしたもの。
- 消音チャンバ
-
消音ボックスの拡大部をさらに大きくしたもの。通常の減衰量は約10dB前後です。
- アクティブ消音器
-
音源の騒音に対して逆位相の音を発生して騒音を打ち消すもの。
消音チャンバの減衰量は次の式で求められます。
R=10log10A/Se
R:消音チャンバの減衰量[dB]、A=Sw・α(Sw:チャンバ内側の全表面積[m²]、α:内張り吸音材の吸音率)、Se:出口断面積[m²]


室内騒音計算のまとめ(5ステップ)
送風系の室内騒音計算をまとめると次の手順です。
- 機器のオクターブバンド騒音値から消音器・直管部の減衰を引いて、吹出位置での残騒音を求める
- 許容騒音がシビアな場合は発生騒音も加算する
- 残騒音+制気口の発生騒音で合成騒音を求める
- 合成騒音から測定点までの室内距離減衰を計算する
- 許容騒音値と比較して合否を判定する













考え方は静圧計算と同じ。圧力損失の代わりに騒音の減衰量を足し引きしているだけ。静圧計算ができる人なら騒音計算も理解しやすい。
屋外機器の騒音計算|距離減衰と防音壁
屋外機器の騒音は距離減衰と防音壁の遮音効果を組み合わせて評価します。騒音規制法の基準値を満たしているかを計算で確認する必要があります。
騒音規制法の環境基準
騒音規制法では、都道府県知事等が指定した地域内の特定工場等について、敷地境界線における規制基準を定めています。基準値は環境大臣が定める範囲内で都道府県知事等が地域の実情に応じて設定する仕組みです。
東京都の規制基準を以下に示します。


屋外騒音防止の基本ポイント
屋外の騒音対策は、低騒音機器の選定・消音装置・防音カバーに加え、防音壁や騒音源の配置計画が必要です。
配置計画は建物計画の初期段階から検討することが重要です。後から対策すると防音壁の増設などコストが跳ね上がります。
距離減衰と防音壁の計算例(スプレッドシート付き)
以下の防音壁の例について、許容騒音値を満足させるための防音壁高さを求めます。


スプレッドシートの着色セルに条件を入力し、判定がOKになるまで防音壁高さを調整します。





距離減衰の計算式は1位を取れているキーワード。スプレッドシートに数値を入れて動かしながら理解するのが一番早い。
騒音計算ツール・計算代行会社の紹介
騒音計算を自力で全て行うのは現実的でないケースが多いです。ここでは実務で使えるツールと計算代行会社を紹介します。
騒音計算代行を依頼できる企業
以前はTDCが騒音計算ソフトを販売していましたが、2024年に販売を終了しています。現在は計算代行のみです。「機器台数が多い」「建物形状が複雑」といった場合は計算代行を依頼しましょう。








屋外騒音の簡易計算ツール
単純な距離減衰のみの簡易計算なら「建築計算機」というサイトで計算できます。
計画初期の機器配置検討程度であれば活用できます。
設備CADで騒音計算できる?
RebroであればDK-BIMと連携させることでダイキン室外機の騒音計算が可能です。


Tfasには現時点でこの機能はありません。



BIMとの連携はまだ限定的。現状はスプレッドシートでの手計算か、計算代行会社への依頼が主流。
おすすめの騒音計|実務で使っている2つ
騒音計は現地調査や竣工検査で必須の道具です。筆者が実務で使っている2つを紹介します。
TRUSCO(トラスコ)の騒音計
会社で実際に使用している騒音計です。現場の施工業者の方も多く使っている印象があります。
まとめ|騒音計算は全体像を掴むことから始めよう
騒音計算の基礎知識から実際の計算手順、ツール・計算代行会社まで解説しました。
- dBには3種類(SPL・SIL・SWL)あり、混同しないことが重要
- 騒音の伝搬経路は5つ。実務ではダクト系と屋外機器の計算頻度が高い
- 室内騒音計算は「機器騒音 − 減衰量 + 発生騒音」で求まる
- 屋外騒音計算は距離減衰+防音壁の遮音効果で評価する
- 複雑なケースは計算代行会社に依頼するのが現実的
騒音計算の全体像を掴むことができれば、計算代行業者に対しても自信をもって指示を出せるようになります。
まずはスプレッドシートに数値を入力しながら、実際に手を動かして計算してみてください。



騒音計算は一見難しそうだが、静圧計算と同じ発想。圧力の代わりに騒音値を足し引きするだけ。スプレッドシートで練習すればすぐ感覚がつかめる。
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空調設計の他の実務知識も合わせて読むと、騒音検討の全体像がより深く理解できます。























コメント
コメント一覧 (2件)
興味深く読ませていただきましたが、一点お聞きしたいことがあります。
「室内における騒音の伝搬」の項で、円形ディヒューザーから離れたところでの減衰量の計算表があります。そこでQ値については「グラフより読み取り」とありますが、私がテキスト(p-286)のグラフから読み取るQ値は63Hzと125㎐以外は計算表にある数値と異なります。
例えば、250Hzの場合のQ値は4.0(本書およびテキストでは3.1)、500㎐の場合のQ値は6.2(本書およびテキスト5.3)です。
設備エンジニアさんはどのような見解をお持ちでしょうか?お聞かせください。
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、テキストの表の数値とグラフから読み取れる数値が不整合(63Hz,125Hz以外)だと思います。