2025/12月 空衛学会誌・建築設備士まとめ

要約解説

筆者が気になったトピックをピックアップしてまとめました。

短時間でおおまかな内容を掴めます。

12月号は1年のまとめということで、非常に内容の濃いものになっています。

目次

空衛学会誌12月号 年報特集号

水道事業の現況と水道管の老朽化

日本の上下水道は普及率こそ高いものの、高度経済成長期に整備された管路の老朽化が深刻化しています。現在、標準耐用年数を超える上水道管の割合は約22%ですが、2042年には66%に達する見込みです。

一方で、管路の更新率は0.64%と低迷しており、全ての水道管を更新するには130年もの歳月を要すると試算されています。この老朽化を原因とする漏水事故は年間約2万件に及び、大規模な道路陥没事故も続発しています。

事業経営も極めて困難な状況にあります。人口減少による有収水量の減少で収益が悪化しており、事業者の8割以上を占める小規模自治体では経営基盤が脆弱です。

設備の更新費用を確保できていない事業者は99%に上り、職員数もピーク時から約4割減少したことで技術継承も危機に瀕しています。また、施設の耐震化率も4〜5割程度と低水準です。

これに対し、国は2024年4月に上水道管理を国土交通省へ移管し、上下水道の一元管理体制を構築しました。現在は、経営の広域化や、衛星データ・AI・ドローンを活用した点検の効率化、予防保全型メンテナンスへの早期転換が推進されています。

建物生涯のCO2排出量を最大40%削減する次世代超高層ビルのプロトタイプ

建物が生涯で排出するCO2(ホールライフカーボン)を抑制するため、建築計画、構造、設備を徹底的に合理化し、最大40%の排出量削減を目指す次世代超高層ビルのプロトタイプが提案されています。

主な特徴は以下の3点です。

第一に構造の合理化です。室内に設けた中間柱に耐震部材を配置し、外周部を木造化(CLT床など)することで、新築時の排出量が多いコンクリートや鉄骨の使用量を削減し、建物の軽量化を実現しています。

第二に生物模倣技術(バイオミミクリー)の導入です。熱回収を行う「ワンダーネット」や、ドレン水の気化冷却を利用する「発汗」などの生体機構を設備計画に応用し、極めて高い省エネ性能を追求しています。

第三に建築計画の刷新です。各階停止のエレベータを廃止し、シャトルエレベータとエスカレータを組み合わせることで、輸送能力を維持しつつ電力消費を大幅に削減しました。

また、中央部に設けた吹き抜け(ボイド)は、自然換気の通り道となるだけでなく、将来の用途変更やメンテナンスを容易にし、建物の長寿命化にも貢献します。(日建設計)

置換空調を採用した体育館向け空調システム

体育館は運動や式典のほか、災害時の避難所としての役割も重要であり、熱中症対策や静穏性、感染症対策のための換気が課題となっています。これらを解決するため、置換空調を採用した体育館向け空調システムが開発されました。

本システムは、屋外の室外機一体型ヒートポンプ外調機と、アリーナ内の壁面に設置する給気ユニットで構成されます。

冷房時は「置換空調方式」により、居住域へ冷却除湿された新鮮外気を低速で供給し、汚れた熱い空気を密度差によって天井方向へ押し上げることで、高い空調効率と換気効率を実現します。

一方、暖房時はユニット下部から床面に沿って高速給気を行い、コアンダ効果を利用して遠くまで暖気を届けます。

主な特長は、冷媒配管工事が不要なため短工期・低コストで導入可能な点です。また、全量を新鮮外気とするため窓開け換気が不要であり、給気ユニットも衝突時の安全性を考慮したクッション素材を採用しています。

実証試験では、避難所用テント等の障害物がある状況でもWBGT値を迅速に低減できることが確認されており、学校やスポーツ施設への導入が進んでいます。(ピーマック)

アップフロー方式クリーンルーム

半導体市場の拡大に伴い、インダストリアルクリーンルームにはさらなる清浄度の維持と省エネ性が求められています。1960年代から主流のダウンフロー方式は、天井から給気し床下へ還気しますが、室内装置の発熱による上昇気流が給気を妨げ、微粒子が滞留しやすいという課題がありました。

アップフロー方式は、これとは逆に床面から清浄空気を給気し、天井で吸い込む方式です。気流経路を短縮できるだけでなく、装置の発熱による上昇気流を逆らわずに活用して微粒子を効率的に排出できるのが大きな特長です。

実大モックアップを用いた比較実験では、FFU型アップフロー方式が最も高い清浄度を示し、従来のダウンフロー方式と比較して床上1.1m付近の粒子数濃度を約65%低減できることが確認されました。

また、本方式は明確な温度成層を形成するため、装置周辺のみを効率的に冷却でき、空調効率の向上も期待できます。特にFU型は給気風速が遅く、成層を乱しにくい利点があります。

この方式は、無理に上から風で押し流すのではなく、「熱が自然に昇る力」を味方につけて汚れを吸い上げる、効率的な煙突のような仕組みといえます。(東洋熱工業)

高発泡消火設備における環境に配慮した泡消火剤

高発泡消火設備は、泡を500倍以上に膨らませて防護対象物を完全に埋没させ、窒息・冷却作用で消火するシステムです。主に航空機格納庫やラック倉庫に設置され、棚などの複雑な立体火災に対しても高い消火性能を発揮します。

従来の専用消火剤は、性能向上のために環境負荷が懸念されるPFAS(有機フッ素化合物)を使用していました。これに対し、PFASを一切使用せずに既存品と同等の性能を実現した、環境に配慮した新たな泡消火剤が開発されました。

本消火剤の大きな特長は、有煙環境下でも高い発泡性能を維持できる点にあります。一般的なPFASフリーの市販品は煙を吸い込むと発泡倍率が大きく低下しますが、本開発品は煙の中でも500倍以上の性能を保持します。これにより、建屋内の空気をそのまま利用する「インサイドエア式」の利点を活かしつつ、外壁の吸排気口工事が不要で、安価に高精度な消火システムを構築可能です。

本製品は2023年12月に型式承認を受けており、脱PFASという環境課題の解決と大規模施設における確実な安全確保を両立する技術として期待されています。(能美防災)

医療ガス設備の設計と配管設備

医療ガス設備は病院における患者の命を守る重要な生命維持インフラです。配管の誤接続やガスの取り違えといった重大事故を防ぐため、医療法やJIS T 7101:2020などの厳格な法規制に基づき、安全かつ確実な供給が義務付けられています。

設計では、将来の増改築や災害時を見据え、供給装置の容量や配管サイズに高い安全率(余裕)をもたせることが重要です。主なガスには酸素、笑気、治療用空気、吸引、炭酸ガスなどがあり、用途ごとに専用の送気圧力と識別色が規定されています。

供給方式は、酸素などは自動切換機構を備えたマニフォールドや超低温液化酸素タンク(CE)から、空気や吸引は冗長性を確保した(2台以上の)オイルフリーコンプレッサや吸引ポンプによって行われます。

配管はガス種別に色分けされた被覆銅管を用い、端末器(アウトレット)には物理的に接続ミスを防ぐ「ガス別特定方式」の形状が採用されています。さらに、緊急遮断弁や、供給状態を常時監視する情報盤の設置、非常用発電回路の確保といった災害・BCP対策により、いかなる時も供給を途絶えさせない工夫がなされています。(エフエスユニ)

360度カメラ画像とAIを用いた工事進捗確認システム

施工管理者が目視で状況を確認する従来の管理手法では移動や確認に多大な時間を要し、管理者の負担になるという課題がありました。これに対し、360度カメラの動画とAI画像解析を活用した工事進捗確認システムが開発されました。

本システムは、360度カメラを手に現場内を歩きながら動画撮影し、クラウドにアップロードするだけで動作します。撮影された動画から、設置されたARマーカとカメラ内蔵のセンサを用いたPDR(歩行者自律航法)技術により、撮影者の歩行経路と図面上の位置を自動で推定します。

AI画像解析は動画から内装工事の工種(壁、天井、床など)や資機材、床の水濡れを自動認識し、その結果を図面上の位置に合わせて色分けして可視化します。管理者はWebアプリを通じて、図面上のクリックした場所の360度画像を遠隔地から確認でき、現場確認作業の時間を1人日当たり約1時間削減することが可能です。

特殊な無線機器の設置が不要で導入コストが安く、工法が標準的な内装工事を対象としているため、あらゆる現場に適用できる高い汎用性を備えています。(大成建設)

ドローンを活用した煙感知器の加煙試験器

煙感知器の点検は法令で6カ月に1回以上義務付けられていますが、工場や商業施設などの高天井では支持棒の操作や足場設置に多大な時間、費用がかかっていました。これを解決するため、ドローン搭載用の専用加煙試験器が開発されました。

本製品はドローンの飛行安定性を重視し、アトマイザ(噴霧器)方式の採用などで、従来の約660gから約290gへと大幅な軽量化を実現しています。上向きカメラとLEDを搭載しており、作業者は地上からリアルタイム映像を確認しながら、正確な位置調整と感知器の作動確認を行うことができます。さらに、フープ(煙を覆う部分)の角度を最大45度まで変更できるギア構造を備え、ドローンが姿勢を保つのが難しい斜め天井での試験も可能となっています。

実運用の事例では、天井高12mでの点検時間が従来の2時間から約40分に短縮されるなど、劇的な効率化と安全性の向上が確認されています。足場設置が不要なため、営業中の通行制限や夜間作業のコストも最小限に抑えることができます。本製品は日本消防設備安全センターの性能評定を取得済みで、消防法施行規則に基づく正式な点検手法として認められています。(能美防災)

建築設備士12月号

「建築設備情報年鑑2025」の記載内容に基づき、今年1年の注目技術・製品、ホテルの設備データベース、および建築設備関連の研究動向について、以下の通りまとめます。

1. 今年1年で注目した技術・製品

建築設備分野では、脱炭素社会の実現(カーボンニュートラル)と業務効率化(DX)を軸とした技術革新が加速しています。

空調・衛生設備分野では、フロン排出抑制法の影響もあり、「R32冷媒対応のビル用マルチエアコン」への注目が非常に高くなっています。R32冷媒は地球温暖化係数が低い一方で微燃性を持つため、漏洩時の安全対策を含めた今後の普及動向が注視されています。

また、脱炭素の切り札として「水素焚吸収式冷温水機」(荏原冷熱システム)や水素燃料ボイラなど、水素をエネルギー源とする熱源機器が実用化され始めています。

計測技術では、非接触で安定検出が可能な「レーダー式レベルセンサや、配管の外側から流量を測定できるクランプオン式超音波流量計」が、施工の省力化や維持管理の利便性から支持を集めました。

電気設備分野において、最も注目を集めたのは「ペロブスカイト太陽電池」です。軽量で柔軟な特性を持ち、壁面や窓への設置が期待される次世代技術として、多くの有識者が関心を寄せています。

照明関連では、自然な青空を再現する「青空照明 misola」や、人感センサーと連動してきめ細かな制御を行う無線照明制御システム「LiBecoM」など、付加価値の高い照明技術が注目されました。

IT・設計支援技術では、生成AIの活用が急速に浸透しています。設計業務を効率化する「AI設計部長」や、BIM(Building Information Modeling)と連携した熱負荷計算、積算ソフトなどが数多く登場しました。特に、現場管理アプリ「SPIDERPLUS」やクラウド共有サービス「Box」は、建設業界の働き方改革を支える基盤として定着しています。

2. ホテル建築における竣工設備データ

協会が独自に調査・分析を行っている竣工設備データ「ELPAC」において、2025年はホテル建築が特集されました。本調査は、過去5年間に竣工した延床面積2,000㎡以上の建物を対象としています。

建築概要と構造 回答があった196件の内訳は、ビジネスホテルが38%、シティホテルが34%、リゾートホテルが20%でした。主要構造はS造(鉄骨造)が50%、RC造(鉄筋コンクリート造)が29%を占め、地震対策として免震や制震構造を採用する事例も一定数見られます。

電気設備データ 受電方式は高圧6kVが約90%と主流ですが、大規模な施設では特高受電も採用されています。契約電力の平均値は0.121kW/㎡であり、2020年度調査(0.104kW/㎡)と比較して増加傾向にあります。

情報サービス面では、客室Wi-Fiの提供が60%を超え、宿泊客の通信ニーズへの対応が必須となっています。また、客室の入室管理はカード式が主流(ビジネス・シティで90%以上)であり、照明などとの省エネ連動も約75%の施設で導入されています。

空調・衛生設備データ 熱源の一次エネルギーは、冷熱源・温熱源ともに電気式が最も多く、冷熱源で78%、温熱源で69%を占めています。客室の空調方式は、パッケージエアコンによる個別方式が最多(135件中70件)であり、次いでファンコイルユニット(4管式)が選ばれています。

衛生設備では、節水器具の採用が省エネルギー計画のトップに挙げられており、厨房設備においても電気とガスの併用が進むなど、エネルギー源の多様化が見られます。

3. 建築設備関連の研究動向

主要4学会(日本建築学会、空気調和・衛生工学会、電気設備学会、照明学会)の研究動向を俯瞰すると、社会的な要請を反映したテーマが上位を占めています。

環境・エネルギー関連研究 全ての学会において共通するキーワードは「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」および「カーボンニュートラルです。日本建築学会や空気調和・衛生工学会では、新築だけでなく既存建物の改修におけるZEB化や、運用の実態調査に関する論文が多数発表されています。また、建物のライフサイクル全体でのCO2排出量を評価する「ホールライフカーボン(J-CAT)」への関心も急速に高まっています。

近年は単なる省エネだけでなく、利用者の快適性や健康に配慮した研究が重視されています。「ウェルビーイング」や、自然の要素を取り入れた「バイオフィリックデザイン」による環境評価・制御は、オフィスや住宅の研究における重要なテーマとなっています。照明分野でも、「視覚心理・視覚生理」に基づいた、高齢者の見え方や睡眠の質を考慮した照明計画の研究が継続して行われています。

電気設備や空調制御の分野では、AIや機械学習を活用した最適運転制御、故障予兆診断に関する研究が目立ちます。また、BIMデータを施工現場や維持管理に活用するための研究や、デジタルツインを用いた室内環境のシミュレーションなど、実務への適用を強く意識した技術開発が盛んです。

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この記事を書いた人

設備エンジニアとして日々奮闘しながら、より良い職場を求めて転職活動中。
複数の転職エージェントに登録。
自己分析や企業研究で得た知見を発信していきます。
【保有資格】
・設備設計一級建築士
・建築設備士
・一級管・電気工事管理技士ほか
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