空衛学会誌1月号
記念すべき第100巻

学会誌『空気調和・衛生工学』は2026年1月、記念すべき第100巻を迎えました。1927年の創刊から1世紀にわたり、空気調和・衛生工学の知見を共有し、学術・産業の発展に寄与してきました。
私の回顧録は北海道科学大学の半澤名誉教授

北海道科学大学名誉教授の半澤久氏による回顧録は、50年以上にわたる建築設備・環境工学への歩みを、恩師や仲間との交流への感謝と共に綴ったものです。
氏は1973年に竹中工務店に入社し、オイルショック直後の省エネルギー建築の黎明期に立ち会い、多くのプロジェクトに関与しました。
1984年からはデンマーク工科大学に留学し、世界的権威であるファンガー教授らの下で室内気流の不快感を定量化する「ドラフトリスクモデル」を確立しました。
帰国後は、日本初となる床吹出し空調システムの開発と実建物への導入を牽引し、さらにGBCやCASBEEといった環境性能評価手法の構築にも深く尽力しました。
2003年の大学転身後は、北海道の地域性を生かした地中熱利用ヒートポンプの実証研究や、キャンパス全体のスマート化を推進しました。その成果は、2018年度の学会振興賞技術振興賞受賞という形で結実しています。
氏は、自らの歩みが西安信氏、ファンガー氏、持田徹氏ら恩師をはじめとする多くの人々との「出会いと交流」に支えられたものであると振り返り、深い謝意で結んでいます。
空衛学会 香川大会の概要報告

令和7年度空気調和・衛生工学会大会(香川大会)は、2025年9月3日から5日にかけて、香川大学幸町キャンパスで開催されました。本大会は、論文投稿数が過去最多の825編(一般講演816編、OS 9編)、参加登録者数も1,709人に達し、全ての項目で過去最多を記録する極めて盛況な大会となりました。
主な行事として、開会式や公開講演会、二つのワークショップが現地とオンラインのハイブリッド方式で実施されました。
ワークショップでは「冷媒の過去・現在・未来」や「ZEBの定義とネット・ゼロ評価方法」といった喫緊の課題について活発な議論が交わされました。
また、公開講演会では香川大学の長谷川修一氏が、地質学的視点から地域の災害特性と土地利用について講演し、満席となる関心を集めました。
テクニカルツアーでは、日本初の海水利用地域熱供給施設や、2025年開館の「あなぶきアリーナ香川」などの最新設備を見学しました。
記録的な猛暑や台風の接近もありましたが、大きなトラブルなく運営され、交流会も過去最多の214人が参加するなど、会員間の親睦が深く図られました。
次年度は、静岡県袋井市での開催が予定されています。
外皮についての話題
建築物の外皮は、2025年4月からの省エネ基準適合義務化により重要性が増しています。
外皮設計は、眺望や明るさの確保と、熱損失や眩しさの抑制という「矛盾」を抱えており、時代に応じた個別解が常に求められます。
最新動向では、形状最適化やペロブスカイト太陽電池の応用、既存建物の改修を促すARを用いた可視化や、非エネルギー便益(NEB)による経済性の正当な評価が注目されています。
竣工設備概要データシートは全て竹中工務店

本号の竣工設備概要データシートには、竹中工務店が設計・施工を手掛けた5つの物件が掲載されています。
- エコボイドによる自然通風を採用したザ・パック本社
- BIMを活用したPanasonic XC KADOMA
- Nearly ZEH-M認証を取得した代々木参宮橋テラス
- 寒冷地仕様の空調を備えたD-LIFEPLACE札幌
- CGS排熱やカスケード換気を利用したららぽーと門真
いずれも省エネやBCP、環境性能に優れた最新設備が導入されています。
建築設備士1月号
「建築設備士の日」てい談 水と共生する建築設備 グローバルな社会・経済・環境課題を超えて
11月18日の「建築設備士の日」を記念して行われたてい談では、関東学院大学の大塚雅之教授、協会の小瀬博之会長、熊谷智夫副会長の3氏により、「水と共生する建築設備」をテーマとした議論が交わされました。
主なトピックは以下の通りです。
- ゼロ・ウォーター・ビル(ZWB)の普及:建物と敷地内での水収支をゼロにするZWBは世界的に注目されており、日本でもZEBのような段階的評価や、災害対策・衛生性といった日本独自の切り口を加えた基準作りが普及の鍵になる。
- BCPとレジリエンス:インフラ途絶の長期化に備え、建物内で自立して水を循環させるシステムや、災害時に被災地でフレキシブルに運用できる排水処理設備など、可変性のある仕組みが求められている。
- 「蓄雨」と環境対応:極端化する降雨に対し、多目的に使える水溜めを設ける「蓄雨」の概念が提唱された。また、ZWB化に伴うコストを補うため、インフラ負担軽減に対するインセンティブの必要性についても言及。
今後はZEBとZWBを評価指標の両輪として捉えることが重要であり、若い技術者が地球規模の視点で水問題に挑戦し、グローバルに情報発信していくことへの期待が示されました。
竣工フラッシュ

虎ノ門アルセタワー
虎ノ門アルセアタワーは、港区虎ノ門二丁目地区の再開発により建設された地上38階建ての超高層大規模オフィスビルです。本建物は「環境配慮」「国内最高水準のBCP」「将来対応計画の拡充」を軸に計画されました。
設備面では、自動制御ブラインドや太陽光パネル、BEMSの導入により、ZEB OrientedやCASBEEのSランク認証を取得しています。
BCP対策としては、制振構造の採用や、重要機械室を2階以上に配置する浸水対策が施されています。
さらに、中圧ガスと重油の両方で稼働するデュアルフューエル型発電機や大規模な地下燃料タンクを備え、インフラ途絶時でも7日間以上の電力と水供給を維持し、隣接する虎の門病院とも連携するレジリエントな設計となっています。
また、基準階は将来的なテナントの設備増強要望にも柔軟に対応可能な仕様が特徴です。
ジーライオンアリーナ
ジーライオンアリーナ神戸は、神戸市新港第2突堤に位置する1万人収容の民設民営アリーナです。2025年3月に竣工し、神戸の海と山に向かって開いた印象的な外観を持つ、都心ウォーターフロントのランドマークとして計画されました。
設備面では、1万人規模のアリーナとして国内初の「ZEB Ready」を達成し、BELSの5つ星評価を獲得しています。
構造にはテンションワイヤーを用いたタイドアーチ構造を採用することで、躯体の軽量化と建物の低層化を実現しました。
電気設備は多彩なイベントに対応するため33kVの特別高圧受電を採用し、停電時も24時間の保安電源を維持する非常用発電機を完備しています。
空調はガスと電気の併用方式で、屋根の形状を活かした効率的な熱気抜きや気流制御により、快適性と省エネを両立しています。
また、海辺の立地を踏まえ、床レベルを地盤面から1.5m嵩上げする浸水対策を施すなど、高いレジリエンスを備えているのが特徴です。
天神ブリッククロス
天神ブリッククロスは、福岡市天神一丁目に位置する、北棟(地上18階)と南棟(地上13階)からなるツインタワー形状のハイグレードオフィスです。
本計画は「天神ビッグバンボーナス」の認定を受けており、地下鉄天神駅に直結しています。デザインには「時をつなぐクラシックスタイル」を掲げ、煉瓦タイルの列柱や全長90mのプロムナード、豊かな壁面緑化により地域の歴史と景観を未来へつないでいます。
設備面では、個別制御性に優れた個別空調方式を採用し、北棟は電気式、南棟はガス式(GHP)を用いることで受電容量の適正化を図っています。また、再生水や雨水を活用した水資源の有効利用も行われています。
BCP対策として、72時間稼働可能な非常用発電機を完備し、停電時でも3日間の業務継続や帰宅困難者の受け入れが可能なレジリエンスを備えています。
YKK AP30ビル
YKK AP30ビルは、富山県黒部市に位置するヘッドクォーターオフィスです。「杜の中ではたらく」をコンセプトに、豊富な地下水、卓越風(あいの風)、伝統的な屋敷林(カイニョ)といった地域の環境特性を最大限に活かした設計が特徴です。
性能面では、高い省エネ性を実現する『ZEB』認証と、執務者の健康性や快適性を評価するWELL認証の最高ランク「Platinum」を両立して取得しています。
具体的な設備システムとして、年間を通じて温度が安定した地下水を空調熱源や修景水としてカスケード利用するほか、窓まわりのマルチスクリーンウィンドウや吹抜け上部の自動開閉窓を用いた自然換気を積極的に取り入れています。
また、放射空調や床吹出しパーソナル空調、フリーアドレス制の導入により、各執務者が自らの好みに合わせて温冷感や場所を選択できるワークプレイスを実現しました。エネルギー面では、528kWの太陽光発電設備により年間の一次エネルギー消費量を賄う設計となっています。





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